あのこのタトゥーは嫌いだけど自分のタトゥーはかわいいの
今はどこで何をしているか分からないある女の子には、タトゥーが入っている。
年上の女の子。私は彼女が嫌いだった。
友達を通して彼女と知り合ったわけだが、彼女はなぜか私と一言も話さなかった。
一応年上だし、当時若干20歳だった私は年上の女の人には褒めちぎり、下から下から、媚びを売れば好かれるという技を駆使して生きていた。
しかし彼女にはそれも通じなかった。
褒めても話を振っても、彼女の冷たい心は動かせない。
そんな彼女と私は、服装の趣味もどことなく似ていたし、友達から話を聞く限り、好きな音楽が一緒だったりと類似している部分がたくさんあった。
似た者同士だからこそ、嫌い合うこともある。
そんな作用があったのかもしれない。
もしくは、ただ単に嫌いだっただけかもしれない。
そんなワケで、私も彼女が嫌いだった。
とにかく、そんな彼女がある日タトゥーをいれた。何度か偶然会ったことがあったのだが、彼女は入れたばかりのタトゥーがちゃんと見えるような服で身を包んでいた。
彼女のことをすっかり嫌いな人というカテゴリーに入れていた私は、ここぞとばかりに彼女のタトゥーを批判した。
「いい年してタトゥーだって」「若者って感じのデザインでダサい」「見えるようにわざわざあんな服を着ちゃって」
というように。しかし私自身、ずっとタトゥーに憧れは抱いていたのだ。
しかし未だに日本社会ではタトゥーを入れるということは拒絶される対象になるので、入れる勇気はなかったし、入れるにしても確固としたデザインも決められなかった。
他人がタトゥーを入れただけなのに、執拗に「タトゥーなんてかっこよくない」と自分自身に必死に言い聞かし、悪口を吐いて回るなんて、その時点でもう「いいないいな!私もほしい!」と言っているのと同じではないか。
自分のほしいものを手に入れた彼女。踏み込めないところに軽い足取りで踏み込んだ彼女。
本当は彼女が羨ましくてしょうがなかったのだ。
そして先日ついにタトゥーを入れた。そして私は今「いい年して」と言っていた、当時の彼女の年齢を越えている。
しかもタトゥーを入れてから髪を束ねることが多くなった。耳の後ろに入れたタトゥーが見えるようにだ。
タトゥーを入れた日から1ヶ月くらいは、お風呂上がりにパンイチ姿のままわざわざ合わせ鏡で自分のタトゥーをウットリ眺める始末。
彼女の悪口を言っていたあの頃の私に、「おい、数年後に滑稽な姿で自分のタトゥーに見惚れることになるから周りに彼女の悪口をいうのは止めておけ!だいぶ恥ずかしいぞ!」と教えてあげたいものである。
それにしても、少しは成長した私は今なら彼女とだいぶ仲良くなれそうな気がする。
一応、変なプライドや惨めなライバル心は時と共に削れたと自負している。
そんな月日の流れと、服装の趣味が合うところ、ちょっと中二病チックなところが相まって、今の彼女と自分がもしどこかで再会したならば、意気投合し、たちまち大親友になれるかもと信じてやまない私なのだ。
ぜひ一緒に銭湯でも行ってみたいものである。
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